店舗づくりコラム
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カテゴリー:店舗づくりコラム
29:バリアフリー対応の店舗設計
目次
バリアフリー対応の店舗設計|法律と顧客サービスの両立|店舗デザイン・設計・施工で進める考え方
バリアフリーは大規模な施設だけの話だと思っていませんか。店舗デザイン・設計・施工を進めるうえで、段差や通路幅、トイレの仕様は、法令への対応と日々の接客の両方に関わる要素です。「うちは小さな店だから関係ない」と考えていたものの、開業後に「入口の段差で入店をあきらめられてしまった」と気づくケースもあります。一方で、すべてを完璧に整えようとすると費用も面積も足りなくなります。この記事では、初めての開業やリニューアルを検討されているオーナー様に向けて、店舗に関わる法制度の全体像と、限られた条件の中で優先順位をつけるための考え方を、設計・施工の実務に沿って解説します。
バリアフリー対応を店舗デザイン・設計・施工の初期に考える理由
バリアフリーへの対応は、法令への対応という側面と、お客様へのサービスという側面の両方を持っています。どちらの観点からも、後から手を入れるより、計画の早い段階で検討しておくほうが選択肢が広がります。
配慮の対象は車いす利用者だけではありません
バリアフリーと聞くと車いすでの利用を思い浮かべがちですが、実際に段差や狭い通路で困るのは、より幅広い方々です。足腰に不安のある高齢のお客様、ベビーカーを押している方、荷物の多い方、けがをして一時的に歩きにくい方、妊娠中の方。目の見えにくい方にとっては表示の見やすさが、耳の聞こえにくい方にとっては案内の伝え方が課題になります。バリアフリー対応とは、特定の方のための特別な設備ではなく、多くのお客様にとっての使いやすさを底上げする取り組みでもあります。
「入れるかどうか」は来店前に判断されています
来店を検討する段階で、店舗の写真や口コミから入口の段差や店内の様子を確認する方もいらっしゃいます。情報が見当たらなければ、不安から別の店を選ぶ判断につながることもあります。段差の有無や通路の状況、トイレの仕様をあらかじめ伝えておけば、来店を決めやすくなります。設備を整えることと、その状態を正確に伝えることは、どちらもサービスの一部です。
後から直すほど工事の範囲が広がります
入口の段差の解消、扉の形式の変更、トイレの拡張。いずれも営業開始後に手を入れようとすると、床や壁、給排水、場合によっては建物共用部との調整まで必要になり、工事の範囲と費用が広がりやすくなります。とくにトイレは、面積と配管の位置に制約されるため、後からの拡張が難しい部分です。設計段階なら間仕切りの位置を少し動かすだけで実現できたことが、開業後には大がかりな改修になる。この差が、早い段階で検討しておく意味です。私たちアースラインでは、設備負荷の高い重飲食(火力・排気・給排水の負担が大きい業態のこと)から高級飲食店まで幅広い店舗づくりを手がけ、設計から施工までを自社で一貫して管理しています。
店舗に関わる法制度の全体像|バリアフリー法・自治体の条例・障害者差別解消法
店舗のバリアフリーに関わる制度は、大きく分けて「建物の造りに関する基準」と「お客様への対応に関する義務」の2つがあります。性質が異なるため、分けて理解しておくと判断がしやすくなります。
バリアフリー法|建物の造りに関する基準
正式には「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」といい、建築物については、不特定多数の方が利用する建築物などを「特別特定建築物」として位置づけています。飲食店や、百貨店・マーケットその他の物品販売業を営む店舗も、この対象用途として法令に挙げられています。国の規定上、原則として床面積の合計が2,000平方メートル以上となる新築等が、建築物移動等円滑化基準への適合義務の対象です。増築・改築・用途変更の場合は、当該部分の床面積で規模を判定します。ただし、次に述べる条例による対象規模の引下げや、複合用途の建物に関する扱いもありますので、対象となる面積と基準を適用する範囲は、設計者および行政窓口に確認します。義務の対象とならない規模でも、法律上は基準に適合させるよう努める位置づけとなります。
基準の内容は、出入口や廊下、傾斜路、階段、便所、駐車場といった部分の構造や配置に関するもので、政令で定められています。求められる寸法や仕様は部位ごとに異なりますので、所管の行政庁(建築主事のいる自治体の窓口)に相談しながら進めましょう。
自治体の条例による上乗せ|「2,000平方メートル未満だから対象外」とは限りません
注意しておきたいのが、自治体の条例によって対象となる用途や規模が付け加えられている場合があることです。たとえば東京都では「建築物バリアフリー条例」を定めており、法律で定める特別特定建築物に加えて対象を広げ、整備基準を強化しています。飲食店や物品販売業を営む店舗については、適合義務の対象規模が床面積の合計500平方メートル以上に引き下げられています。国の2,000平方メートルだけを見て「対象外」と判断すると、実際には義務の対象だったという事態になりかねません。あわせて「東京都福祉のまちづくり条例」もあり、届出が必要になる場合があります。対象用途も規模も自治体によって異なりますので、出店予定地を所管する窓口で計画の初期に確認しておきましょう。
障害者差別解消法|お客様への対応に関する義務
建物の造りとは別に、事業者としての対応を定めているのが障害者差別解消法です。この法律の改正により、令和6年(2024年)4月1日から、事業者による障害のある方への「合理的配慮の提供」が義務となりました。ここでいう事業者には、営利・非営利、個人・法人を問わず、企業や団体、店舗が広く含まれるとされており、個人で営む小さな店舗も対象です。
合理的配慮とは、障害のある方から「社会の中にあるバリアを取り除いてほしい」という意思が伝えられたときに、負担が重すぎない範囲で対応することを指します。政府広報では、飲食店で「車いすのまま着席したい」との申し出に対し、備え付けの椅子を片付けて車いすのまま着席できるスペースを確保した対応が例として挙げられています。過重な負担にあたるかどうかは、事業への影響の程度、実現可能性、費用や負担、事業規模、財政・財務状況などを総合的・客観的に判断するものとされています(政府広報オンライン「事業者による障害のある人への『合理的配慮の提供』が義務化されました」)。
希望された方法での対応が難しい場合もあります。その際は、できない理由を説明したうえで、本人と話し合いながら、別の方法で利用できないかを検討します。一方的に断るのではなく、対話を通じて代替の手段を探すことが求められる点が、この制度の特徴です。
設備が完璧でなくても対応の余地はありますが、同様の支援が繰り返し必要になる場合は、設備や対応手順を改善することで、利用される方とスタッフ双方の負担を減らしやすくなります。設計段階で解消できる部分は設計で、運用で対応する部分は手順を決めて。この切り分けを開業前に考えておくことが、法令への対応と接客の質を両立させる近道になります。
出入口からトイレまで|設計段階で検討したい具体ポイント
ここからは、店舗設計の中で実際に検討することになる部分を、お客様がたどる順番に沿って見ていきます。
アプローチと出入口
最初の関門になりやすいのが、道路から店内までの段差です。歩道との高低差、玄関框(げんかんかまち:床の立ち上がり部分)、排水のための立ち上がりなど、段差が生じる理由は物件によってさまざまです。解消の方法には、高低差に応じて床の高さを調整する、傾斜路(スロープ)を設ける、段差解消機を設けるといった選択肢があり、確保できる距離と面積によって採れる手が変わります。床の高さを変える場合は、別の場所に新たな段差が生じないか、排水の勾配や設備の納まりに支障が出ないかをあわせて確認します。傾斜路は勾配が急だと自力での通行が難しくなり、必要な長さは高低差に比例して伸びますので、平面計画の早い段階で場所を押さえておく必要があります。
扉についても、開き戸か引き戸か、有効な幅を確保できるか、開閉に必要な力はどうかを検討します。引き戸は、車いすやベビーカーでも通行しやすい形式のひとつです。雨天時に滑りにくい床材か、マットの段差でつまずかないかも確認しておきたい点です。
店内の通路と客席
店内の通路については、まず、法令や条例で移動等円滑化経路(出入口から利用居室や便所までを結ぶ、円滑に移動できる経路)の確保が求められるかどうかと、その基準を確認します。義務の対象となる場合、確保すべき経路と仕様は基準に従って計画します。そのうえで、義務の対象とならない部分についても、入口からいくつかの席、そしてトイレまでの経路を車いすやベビーカーで通行できるようにしておくと、実際の使いやすさが変わります。
客席側では、テーブルの形状によって、車いすのまま着席できるかどうかが変わります。天板下の高さ・幅・奥行きと、脚や台座の位置を確認し、膝やフットサポート(足を乗せる部分)が干渉せずに近づけるものを、実物やカタログの寸法で選びます。固定式のソファやベンチだけの客席は車いすでの利用が難しいため、可動式の椅子を組み合わせた席を何席か用意しておくと、椅子を外すだけで対応できます。カウンター中心の店舗では、一部の高さを下げた席を設ける方法もあります。座席と通路のバランスについては店舗レイアウトの設計法則もあわせてご覧ください。
トイレ
トイレについては、まず、法令・条例に基づく車いす使用者用便房の設置義務の有無と、適用される仕様を確認します。設置が義務となる場合、面積や予算を理由に、手すりの追加といった任意の設備で代替できるわけではありません。以下に挙げるのは、義務の対象とならない既存店舗などでの改善例、あるいは必要な基準を満たしたうえでの追加の工夫です。
扉を内開きではなく引き戸や外開きにして、中での動作に余裕を持たせる方法があります。外開きとする場合は、開いた扉が通路を塞がないか、通行する方と接触しないかもあわせて確認します。また、身体を支えられる位置に適切な強度の手すりを設ける、着替えや荷物を置ける場所をつくるといった工夫も、使いやすさにつながります。
計画にあたっては、バリアフリーに関する法令・条例に加え、飲食店営業の衛生上の基準も確認します。ベビーチェアやおむつ替え台の設置も、お客様層によっては検討したい要素です。店舗全体の面積配分にも影響しますので、平面計画の初期に方針を決めておきましょう。
サイン・照明・情報の伝え方
設備だけでなく、情報の伝わりやすさも配慮の一部です。トイレや出入口の表示は、文字の大きさと背景との明度差を確保すると見やすくなります。足元の段差に光を当て、暗がりをつくらない照明計画も、つまずきの防止につながります。メニューは、文字が小さすぎないか、暗い照明の下で読めるかを確認しておきましょう。耳の聞こえにくい方への案内には、筆談具の用意や、呼び出しを番号表示で行う方法があり、こうした道具の置き場所も設計段階で決めておくと現場で機能しやすくなります。
小規模店舗・テナント物件での現実的な進め方
法律上の適合義務の対象とならない規模の店舗や、建物側の条件を変更しにくいテナント物件では、何をどこまで行うかの判断が必要になります。
物件契約前に、建物側の条件を確認する
ビル内の店舗では、共用部の段差やエレベーターの有無、共用トイレの仕様といった条件を自店だけでは変更できません。入口までの経路に段差がある、エレベーターが小さいといった条件は、契約後に判明しても手の打ちようがないことがあります。バリアフリーへの対応を重視するのであれば、物件選びの段階で共用部を含めて確認し、専有部の工事でどこまで手を入れられるかも、貸主との取り決めとあわせて契約前に確かめておきましょう。
できることとできないことを、正確に伝える
すべての条件を整えられない場合でも、現状を正確に伝えることには意味があります。入口に段差があるか、その高さはどの程度か、店内の通路は通れるか、トイレはどのような仕様か。こうした情報を自店のウェブサイトやSNSに掲載しておけば、来店前に判断できます。「対応できません」で終わらせず、「入口に段差がありますが、ご連絡いただければスタッフが携帯用スロープを設置します」「車いすのまま着席できる席をご用意しています」のように、実際に提供できる支援の内容まで伝えられる状態にしておくと、来店前の不安を減らせます。
運用でできる配慮を、あらかじめ決めておく
可動式の椅子を外して車いすのまま着席いただく、注文時にメニューを読み上げる、筆談で応対する、入口の段差でお困りの方に希望する支援の方法をうかがったうえで介助を行う。こうした対応は、手順とスタッフ間の共有があってこそ、その場で迷わず行えます。介助は本人の意向を確認してから行うことを含め、誰がどう対応するかを開業前に決め、朝礼やマニュアルで共有しておきましょう。設備で解決する部分と運用で対応する部分を整理しておくと、現場の負担も抑えられます。
改修のタイミングと費用の考え方
既存店で対応を検討する場合は、内装のリニューアルや設備の更新にあわせて計画すると、工事を一度にまとめられます。床を張り替えるタイミングで段差を解消する、トイレの設備更新にあわせて手すりを追加するといった進め方です。費用の全体像や進め方については費用目安ページをご参照ください。
設計・施工の進め方|法令対応とデザインを両立させるために
最後に、計画を進めるうえでの手順と、確認しておきたい点を整理します。
行政への事前相談は、早いほど選択肢が残ります
適用される基準は、建物の規模や用途、所在する自治体によって変わります。バリアフリーに関する基準のほか、飲食店であれば保健所の基準、消防に関する基準も並行して確認が必要です。それぞれ窓口が異なりますので、設計者と連携し、平面計画が固まる前の段階で相談しておくと、後戻りを避けやすくなります。関連する法規制の全体像は押さえるべき法規制と保健所基準でも取り上げています。
図面だけでなく、実際の動きで確認する
通路幅やトイレの広さは、図面上で基準を満たしていても、実際に車いすで方向転換できるか、扉を開けながら通れるかは別の問題です。現場で寸法をテープで示して確認する、可能であれば実際に使う方の視点で見てもらうといった検証が有効です。こうした確認は、内装が仕上がる前の段階であれば、まだ調整の余地があります。
配慮と空間の質は両立できます
手すりやスロープは、必要な機能を確保しながら、素材や色、形状を工夫して空間になじませることができます。手すりを内装の素材に合わせる、段差解消のスロープを床の構成として計画に織り込むといった方法があります。機能を後付けの設備として扱うか、設計の一部として最初から組み込むかで、仕上がりの印象は変わります。
デザイン・設計・施工を通して検討できる体制
バリアフリーへの対応は、意匠の検討、法令の確認、施工上の納まりが互いに関わり合う領域です。担当が分かれていると、デザインを優先して基準を満たせなくなったり、その逆で空間の魅力が損なわれたりすることがあります。私たちアースラインは、企画から設計、施工までを自社で一貫して管理しているため、「この配置なら通路幅を確保できるか」「この仕上げで滑りにくさを保てるか」といった検討を、デザインの打ち合わせと同じ場で進められます。これまでの空間づくりの実例は施工事例ページでご覧いただけます。
まとめ|バリアフリー対応は、店舗デザイン・設計・施工の一貫計画で考える
店舗のバリアフリーには、建物の造りに関するバリアフリー法や自治体の条例と、お客様への対応に関する障害者差別解消法という、性質の異なる制度が関わります。規模によって適合義務の有無は変わりますが、条例による上乗せがある場合もあり、合理的配慮の提供は規模を問わず求められます。まず適用される基準を確認し、それを満たしたうえで、入口・通路・トイレ・情報の伝え方のどこに利用上の障壁があるかを見極めて優先順位を決める。そして設備で解決する部分と運用で対応する部分を整理しておく。この順序で考えれば、無理のない形で進められます。そのためには、店舗デザイン・設計・施工を一貫して考えられる体制で、計画の早い段階から検討することが有効です。
株式会社アースラインは、創業から23年、ラーメン・焼肉・寿司といった設備負荷の高い重飲食から、ミシュラン三ツ星「日本料理 龍吟」をはじめとする高級飲食店まで、幅広い業態の店舗づくりを手がけてきました。企画・店舗デザイン・設計・施工、そして開業に向けた立ち上げサポートまでをワンストップでご提供し、東京23区を中心に全国に対応しています。「この物件で段差を解消できるか」「限られた面積でトイレをどこまで広げられるか」といった具体的なご相談も承ります。図面を描く前の段階から、どうぞお気軽にお声がけください。
株式会社アースラインです。お知らせなどを発信しています。
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